納豆
毎晩のように7時から授業がある私の夕食時間は30分間しかありません。時間との戦いですが、近くの自宅に戻り家族全員で食べることができるだけでも有難いと思っています。今晩のメニューのひとつは発砲スチロールのパックに入った納豆でした。私自身は好んで食べる方ではありませんが、子供たちは大好きです。そんな子供たちに納豆をかきまぜながら、思い出したエピソードがあります。
私のおやじには3人の弟と1人の妹がいました。貧乏な家庭に育ったおやじは、食卓に納豆が出るとたくさん醤油を入れてかきまぜるのが日課だったそうです。少ない納豆をみんなで食べるための苦肉の策だったのでしょう。そして、奉公先の時計屋さんで事件は起きました。納豆を用意してくれと頼まれたおやじは、いつものように醤油をたっぷり入れて練ったのでした。それを見たご主人は「こんなもの食えるか!」と怒鳴ったそうです。
4月25日はおやじの命日です。4年前の今日あの北斗病院のベットで他界しました。人の死を目の当たりにしたのは、初めての経験でした。生命維持装置の無機質な音、「死なないで!」と叫ぶ声に揺れるカーテン、心臓マッサージをする医師の額に光る汗、・・・。人生で一番悲しかった日の始まりでした。その年の1月に脳梗塞で倒れて意識不明になってから、私に心の準備ができるまでの約3ヶ月よくがんばってくれました。
いつもはあまり手をつけない納豆ですが、今晩は食べることにしました。心持ち醤油を多めに入れてかきまぜると、なぜかおやじの味がするようでした。子供たちが大きくなったら、「納豆とおやじ」の話は必ずしてやろうと思います。
*兵庫県尼崎市のJR福知山線で快速電車の脱線事故が起きました。ニュースによると、50人の死亡が確認され、重軽傷者も325人に上ったそうです。亡くなられた方のご冥福をお祈りします。